篠笛とは

篠笛は、日本に古くから伝わる竹の横笛です。透明で清らかな音色、華やかな指打ち音が特徴です。竹に孔をあけ、内部に漆を塗っただけの単純な構造ですが、様々な表現に応えます。ピーヒャラ・ドンドンと太鼓や鉦と一緒に囃される賑やかな祭囃子から、歌や三味線、または篠笛一管で奏される情緒的な音曲まで、自在に旋律を奏でることができる魅力的な和楽器です。現在、篠笛は主として「祭音楽」「三味線音楽」「篠笛音楽」「和太鼓音楽」の四つの分野で吹かれています。

篠笛が吹かれる分野

祭音楽

祭で育まれた篠笛は、祭において最も生き生きと吹き鳴らされます。太鼓や鉦とともに賑やかに囃される祭囃子。 地域色豊かな民俗芸能の中で魅力的な旋律が奏でられ、子供たちの素直な笛、若者たちの力強い笛 熟練の手練れによる味のある笛など、生命力あふれる篠笛の音が神社の境内、氏地の村や町に響き渡ります。

三味線音楽

歌舞伎をはじめとした三味線音楽でも篠笛が奏されます。江戸時代に入って祭から採り入れられたもので、互いの楽器が強く主張する祭音楽とは対照的に、舞や踊り、歌や三味線に寄り添って調和を以て情緒的に旋律が奏でられます。 歌舞伎の舞台の下座で多様に展開する黒御簾(くろみす)音楽でも篠笛が効果的に用いられます。

篠笛音楽

篠笛が主役となって表現される舞台音楽です。篠笛の独奏、二重奏、和太鼓、絃楽器、歌や舞との共演などが行なわれます。篠笛は、時に歌舞をともなって他の楽器とともに奏されることが普通ですが、明治以降、このような篠笛を主体とした演奏会形式の舞台が成立しました。祭囃子あるいは三味線音楽から篠笛を抽出して演奏したり、それらを基礎とした新曲が創作されたりします。

和太鼓音楽

太鼓が主役となって表現される舞台音楽です。多くの場合、複数台の太鼓を用いて大人数で打たれることが多く、旋律だけではなく視覚的な演出にも重きが置かれます。祭囃子を舞台向けに編曲したものや、現代的な感覚で創作された音曲があります。 昭和中期から平成期にかけて成立した分野です。篠笛は、太鼓とともに奏されたり、舞台転換の際に独奏されたりします。

篠笛の種類

ア 調律方法による分類

各地の祭の中で地域ごとに育まれてきた篠笛は、その旋律とともに楽器の仕様も「方言」のように多様です。 このような「地元の担い手による自作の篠笛」だけではなく、京都・大坂・江戸などの都市に住む笛師が製作した「広域に流通する職人の篠笛」もあります。 篠笛は、①「民俗的調音篠笛」(民俗調)、②「古典的調音篠笛」(古典調)、③「邦楽的調音篠笛」(邦楽調<唄用>)に大別すると便利です。

民俗調の篠笛

地域独自の指孔配置の篠笛で、均等孔や変則孔など指孔の配置から音を探る「調孔笛」と、地域独自の民俗律を基準に音を探る「調音笛」とがあります。これらの笛から紡ぎ出される音の体系は、「方言」のように地域の人々にとって違和感なく慣れ親しまれてきたものです。「古典調」から変化したと思われる「民俗調」の篠笛もあります。祭音楽で用いられる篠笛の指孔の数は七孔のものと六孔のものが多く、五孔以下のものもあります。

古典調の篠笛

均整のとれた指孔配置の篠笛です。古典的な雅楽の横笛(龍笛や神楽笛など)の音階に準じます。自由な指運びが可能で、大きな音、歯切れの良い華やかな指打ち音が特徴です。祭囃子をはじめ、独奏や太鼓との共演に適しています。日本十二律調音篠笛。

邦楽調(唄用)の篠笛

古典調の篠笛の魅力を保ちながら、指孔の配置と大きさに微調整を施して調音した篠笛です。三味線や箏など絃楽器との演奏、わらべ歌や民謡、長唄など歌物の表現に適しており、古典調に比べて各音の繋がりはなめらかです。日本十二律調音篠笛。

篠笛の分類表 森田玲(篠笛文化研究社)2020.03

十二律

日本では、奈良時代に唐から伝わった十二律の体系があります。 すべての日本音楽が十二律の影響下にあるわけではありませんが(わらべ歌や祭囃子など)、 雅楽をはじめ、声明や能、箏や三味線の音作りの基本となってきました。 三分損益法で1オクターブが12個の音(律)に分けられます。計算方法は異なりますが、 古代ギリシャの哲学者ピタゴラス学派が算出した音の配列と同じです。

イ 基本音高による分類

祭の中で用いられる篠笛は一種類ですが、三味線音楽では歌や曲によって音の高さが異なるために、様々な音高の篠笛が必要になりました。近世邦楽の篠笛では、三味線の調絃の基準となる「十二律」を元に、一本調子から十二本調子までの篠笛が想定されました。調子の数字が小さくなると太く長い笛で全体の音高が低くなり、逆に数字が大きくなると細く短い笛で音高が高くなります。笛を持ち替えることによって、異なる音高の同じ旋律を、運指を変えずに演奏することが可能となります。実際には、極端に小さい数字や大きい数字の調子の笛は用いられませんが、六本調子半、あるいは、さらに微妙な音高の笛が作られることもあります。三味線音楽の世界で発達した篠笛の分類法ですが、現在では、他の分野の篠笛を作る際にも、その音高を定める目安として重宝されています。

笛師によって基準が異なるため、同じ調子の笛であっても最大で一律ほど音が異なりますので、異なる笛師の笛を併用する場合は、必ず実際の音の高さをご確認ください。


より詳しくは、
森田玲『日本の音 篠笛事始め』をご覧ください