篠笛ができるまで

縮緬本『Princess Splendor』[国立国会図書館 所蔵]

篠笛は女竹(めだけ)に孔をあけた簡単な造りですが、透明で艶のある音、華やかな指打ち音、指の押さえ心地の良さを実現するためには、竹の伐採から仕上げまでの各工程で、丁寧な作業が必要とされます。

女竹の伐採

篠笛作りは竹選びから。風に揺れサラサラと清らかな葉音がわたる女竹の林。青竹と黄色の竹皮(稈鞘<かんしょう>)との対照が美しい竹です。全国各地の温暖な地域に生えており、川辺にも多く見られることから川竹の名称で呼ばれることもあります。若くて柔らかい1年生の竹を避けて、程よい長さと太さのものを選びます。篠笛の材料としては、節間の長いものが必要ですが、笛に適した竹は中々見つかりにくく貴重です。篠笛文化研究社では、瀬戸内、九州、関東の女竹を使用しています。

竹を寝かせる

採った竹は3年ほど寝かせます。時季を選び陽に当てて色を抜きます。この過程で割れる竹、虫に食われる竹などを除いて、篠笛の材料が選抜されます。

夕メ・孔彫り・漆塗り・籐巻き

幾つもの工程を経て篠笛が完成します。

一|

「竹のように真っ直ぐな」という表現がありますが、節間が長い女竹は大きく曲がっていることが少なくありません。火で熱し、一節一節を矯(ため)ることによって真っ直ぐになるよう調整します。

二|孔彫り

篠笛の音を決める重要な作業です。まず歌口(息を当てる孔)の孔をあけ形を整えて、おおよその音色と吹き心地を定めます。 続いて、指孔を一つあけては音高を確認するという作業を繰り返していきます。歌口と指孔が全部あいた状態で、孔の形を再調整し、 理想の音色に仕上げます。笛師の腕、笛に対する考え方が最も反映される工程です。 篠笛文化研究社では、篠笛奏者でもある笛師が、吹き手の立場に立った笛作りを心掛けています。調音にこだわりすぎると、指孔の配置がいびつになって、自由な指運びが難しくなったり、音色が損なわれたりするので注意が必要です。

三|漆塗り

管内に漆を塗ることで空気の流れが良くなり、音に透明さが増します。漆は空気中の水分と重合することで固まります(乾く)。漆を塗って後、湿度を調整した「室(むろ)」<漆部屋>に入れて漆を乾かせます。 この作業を5回ほど繰り返し、漆に十分な厚みを持たせます。漆にかぶれないように注意が必要な作業です。

四|巻き

補強と装飾を兼ねて蔓性の籐を巻きます。竹皮を一段彫り下げて、丁寧に巻いていきます。

五|数字入れ

菅頭に音高を表す調子を数字で記します。

六|銘入れ

菅尻に銘の焼印を入れて完成です。

笛を育てる

竹の伐採から3年以上、実際の作業に取り掛かってから、およそ1ヶ月半から2ヶ月ほどで篠笛は完成します。 温湿度の変化に気を付けていれば一生使える楽器です。 生まれたばかりの笛は、まだ、音も堅く、手に馴染んでもいません。使い込めば使い込むほど、吹けば吹くほど笛は育ちます。 その育て方も人それぞれです。末永くご愛用いただければ幸いです。

笛師の紹介

笛師:森田香織

音色に対して強いこだわりを持つ師・森田玲(篠笛奏者)の下、 ひたむきに音と向き合い試行錯誤を重ねて篠笛「京師-みやこ-」を作り上げた。竹の採取から笛づくりまでを一貫してこなす。 奏者としての経験と、篠笛研究で得た知見を活かし、吹き手に寄り添いつつ、篠笛の歴史に恥じない笛師を目指す。