詳報

篠笛 Q&A

(2)種類・音階に関する質問

2-1 どんな篠笛の種類がありますか?

各地の祭の中で地域ごとに育まれてきた篠笛は、その旋律とともに楽器の仕様も「方言」のように多様です。 このような「地元の担い手による自作の篠笛」だけではなく、京都・大坂・江戸などの都市に住む笛師が製作した「広域に流通する職人の篠笛」もあります。 篠笛は、①「民俗的調音篠笛」(民俗調)、②「古典的調音篠笛」(古典調)、③「邦楽的調音篠笛」(邦楽調<唄用>)に大別すると便利です。

◎詳細→〔篠笛とは

 

 2-2 民俗調・古典調・邦楽調(唄用)の違いを教えてください。

以下のような歴史と特徴があります。◎詳細→〔篠笛とは〕〔篠笛の分類案

・民俗調の篠笛・
地域独自の指孔配置の篠笛で、均等孔や変則孔など指孔の配置から音を探る「調孔笛」と、地域独自の民俗律を基準に音を探る「調音笛」とがあります。これらの笛から紡ぎ出される音の体系は、「方言」のように地域の人々にとって違和感なく慣れ親しまれてきたものです。「古典調」から変化したと思われる「民俗調」の篠笛もあります。祭音楽で用いられる篠笛の指孔の数は七孔のものと六孔のものが多く、五孔以下のものもあります。

・古典調の篠笛・
均整のとれた指孔配置の篠笛です。古典的な雅楽の横笛(龍笛や神楽笛など)の音階に準じます。自由な指運びが可能で、大きな音、歯切れの良い華やかな指打ち音が特徴です。祭囃子をはじめ、独奏や太鼓との共演に適しています。日本十二律調音篠笛。

・邦楽調(唄用)の篠笛・
古典調の篠笛の魅力を保ちながら、指孔の配置と大きさに微調整を施して調音した篠笛です。三味線や箏など絃楽器との演奏、わらべ歌や民謡、長唄など歌物の表現に適しており、古典調に比べて各音の繋がりはなめらかです。日本十二律調音篠笛。

 

2-3 十二律とは何ですか?

日本では、奈良時代に唐から伝わった十二律の体系があります。 すべての日本音楽が十二律の影響下にあるわけではありませんが(わらべ歌や祭囃子など)、 雅楽をはじめ、声明や能、箏や三味線の音作りの基本となってきました。 三分損益法で1オクターブが12個の音(律)に分けられます。計算方法は異なりますが、 古代ギリシャの哲学者ピタゴラス学派が算出した音の配列と同じです。

◎詳細→〔8-3 三分損益法による日本十二律の算出方法

 

2-4 笛の長さと調子の関係を教えてください。

祭の中で用いられる篠笛は一種類ですが、三味線音楽では歌や曲によって音の高さが異なるために、様々な音高の篠笛が必要になりました。近世邦楽の篠笛では、三味線の調絃の基準となる「十二律」を元に、一本調子から十二本調子までの篠笛が想定されました。調子の数字が小さくなると太く長い笛で全体の音高が低くなり、逆に数字が大きくなると細く短い笛で音高が高くなります。笛を持ち替えることによって、異なる音高の同じ旋律を、運指を変えずに演奏することが可能となります。実際には、極端に小さい数字や大きい数字の調子の笛は用いられませんが、六本調子半、あるいは、さらに微妙な音高の笛が作られることもあります。三味線音楽の世界で発達した篠笛の分類法ですが、現在では、他の分野の篠笛を作る際にも、その音高を定める目安として重宝されています。

笛師によって基準が異なるため、同じ調子の笛であっても最大で一律ほど音が異なりますので、異なる笛師の笛を併用する場合は、必ず実際の音の高さをご確認ください。

◎詳細→〔8-2 篠笛の調子と十二律の対応表

 

2-5 〇本調子の音の基準は何ですか?

篠笛は習慣的に六の音(●○○○○○●)が日本十二律のどの音に対応するかを基準として、何本調子であるかを定めています。日本十二律は、三分損益法によって1オクターブを十二に分ける音律で、雅楽や箏、三味線など、日本の音楽で伝統的に用いられてきた音律です。例えば、七本調子はその低い方から七番目の鳧鐘 (ふしょう)の音を第六孔(六の運指)に、六本調子は、その低い方から六番目の双調(そうじょう)の音を第六孔(六の運指)に割り当てています。

◎詳細→〔8-2 篠笛の調子と十二律の対応表

 

2-6 A管の笛は何本調子の笛に相当しますか?

近年「〇〇調子の笛は〇管になりますか?」といった質問が少なくありません。A管、B管といった西洋の基準で篠笛の調子を表現することはできませんが、篠笛の「1」の運指が、おおよそ西洋のどの音に対応するかによって判断することができます。

◎参照→〔8-4 篠笛の調子と洋音との比較表

 

2-7 篠笛の音はドレミですか?

篠笛は日本古来の楽器ですので、西洋12平均律(ドレミ)では調律されていません。

 

2-8 洋楽・現代曲の演奏にお奨めの笛を教えてください。

邦楽調(唄用)の笛で西洋12平均律に近い音を出すこともできます。篠笛風洋楽調横笛(ドレミの笛)は、右手の指孔の間隔が広過ぎて自然な指運びや指打ちが困難です。洋楽・現代曲ばかりを吹くことはお奨めできませんが、その機会がある場合は、篠笛らしさ、を大切にする意味でも、邦楽調(唄用)で吹いてみてはいかがでしょうか。

 

2-9 ピッチが合いません。

篠笛は「奏者」と「楽器」の双方で、求める「音高・音色・音量」を表現する「半作音楽器」です。「あそび」を持たせておいて、「息遣い」と「指使い」の工夫で「音」を狙うことで、豊かな響きを生み出します。

このような理由から、「古典調」も「邦楽調」も「調律笛」ですが、あえて「調律」を曖昧にしています。各指孔に対して割り当てる音を厳密にし過ぎると、自然な指で押さえることができない位置に指孔を配置することになり、また、指孔の大小が極端になってしまいます。これでは、篠笛の魅力である「華やかな指打ち音」の表現が難しくなります(この曖昧さのため、本来的ではありませんが「邦楽調(唄用)の篠笛」でも「西洋12平均律(ドレミ)」を出すことも可能となります)。

また、ある人にとって吹きやすい笛が、ある人にとっては吹きにくい笛であることが少なくありません。笛と奏者、それぞれに個性があることが、それぞれの吹き手にとって最良の笛と出会う可能性を広げていると言えるでしょう。

 

2-10 同じ種類の笛でも音が微妙にずれているように感じます。

篠笛は自然素材の竹を使用しており、一つ一つ手作りです。そのため、吹き心地や音色、各孔から出る音高も微妙に異なります。ただし、各指孔に割り当てられた音には幅があり、息を当てる角度によって、一律(半音)程度は音高を上げたり下げたりすることができるので、同じ種類の笛であれば、同じ音高を出すことは難しくありません。

 

2-11 邦楽調(唄用)の各指孔の周波数を教えてください。

銘(笛師)によって調律の基準や各指孔に割り当てる音の高さは少し異なりますが、例えば「京師-みやこ-」の邦楽調(唄用)を製作する際の基準は以下の通りです。◎参照→〔8-5 京師・邦楽調(唄用)の音律表